注目されても、買ってもらえなければ意味がない。
以前、私の家の近所には無人販売の野菜直売所があった。「大根1本100円」や「とれたてのおいしい野菜です」などと書かれた手書きのポスターがあったことを覚えている。
ポスターといっても、ただのA4サイズの白紙にお世辞にも綺麗とは言えない手書きの字でマジックで書かれ、無造作に貼られたものだ。しかも、泥までついて風化気味だ。
しかし・・・それで良い。いや、それが良いのだ。
ポスターは宣伝や告知のためのものだ。だから、キレイに作りたがる方もいる。カッコイイ見た目にしたら、お客様が買ってくれると考える方もいる。だが、それは残念ながら違う。
確かに、美術館に貼られるような素晴らしいポスターを貼れば注目されるだろう。SNSでも話題になるかもしれない。しかし、先ほども申し上げたようにポスターは本来、宣伝や告知のためのものだ。注目されても、自社商品を買ってもらえなければ意味がない。
大企業のポスターとは違う
JRのような大企業であれば、直接自社商品の購入を促す必要はない。「そうだ、京都行こう。」というような素敵なポスターを作り、(何を売っているのかわからないけれど)「京都行きたいなー」とワクワクさせる方が後々のことを考えると重要だ。
だが、野菜直売所で、素晴らしいデザインだが、何を売っているのかわからないポスターが貼られていても何も意味がない。むしろ、素晴らしいデザインで、明らかにパソコンのソフトを駆使して作ったポスターが貼られていたら、あまり買う気がしない。
むしろ、今の状態、ただのA4サイズくらいの白紙にお世辞にも綺麗とは言えない手書きの字でマジックで書かれ、無造作に貼られたものだ。しかも、泥までついて風化気味だ。こういうポスターのほうが望ましい。失礼かもしれないが、絶妙の下手うま加減なのだ。
農家の方が、手書きで書いた感じが良いのだ。泥付き野菜の良さは、自然な所や手づくり感だ。そして、作った人の顔を思い浮かべられ、温かみを感じる所も良い。だから、そういう野菜を求める人は、自然な手作り感や人の温かみを求めている。
なのに、もし、素晴らしいデザインの手作り感が一切ない洗練されたポスターが貼られていたらどう思うだろうか?少なくともその農家さんが作ったとは思わないだろう。もしかするとデザインが得意な農家さんが作ったものかもしれないが、それでも惹かれない。手作り感満載で自然な雰囲気のポスターに惹かれる。
この原理をわかっている自然派や温かみを売りにしている飲食店、道の駅やスーパーは、手書きの広告や黒板を用意したり、農家さんの顔写真や名前を店頭の広告で載せているくらいなのである。
このように考えると・・・看板やポスターはもちろん、広告やホームページなどにおいても、「かっこいい見た目ならば良い」と言うわけではないのはお察し頂けると思う。自分のビジネスは、お客様(&見込み客)にどういうことを期待され求められているのかを見誤ると、大コケするということだ。
こんな農家さんは嫌だ
もし、無人販売の野菜直売所で野菜を売る農家さんが、常にスーツをビシッと着ていて、洗練された都会らしいイメージであり、実は日光浴も泥を触るのも嫌いで常にゴム手袋をはめて農作業をしていて、特技はパソコンのデザインソフトでかっこいいポスターを作ることだとしたら非常に勝手ながらがっかりしてしまう。
できれば、農家さんは、自然や生き物が大好きで大切にしていてほしいし、勝手ながらそういうイメージだ。そうなると、やはり手作り感あふれるポスターの方がイメージがわくし、顔が浮かんでなんだか欲しくなる。
逆に、銀座の高級クラブやバーに、白紙にマジックで書かれた手作り感あふれるポスターが貼られていたら興ざめしてしまうだろう。つまり、その広告が良いかどうかは、場所や客層、マーケット、求められているものによって判断が変わるということだ。
いつ、どこで、誰に、売るのか?
ただ広告を見て、良いだの悪いだの決められない。一体どんなビジネスで、どういう人をターゲットにしていて、価格はどのくらいなのか、どこで販売しているのかなどで話は変わってくる。無人販売の野菜直売所と銀座の高級クラブやバーでは全く違うのだ。
このように、ポスターやチラシ、ホームページなど広告を作成する際は自分のビジネスをきちんと把握する必要がある。なので、私がご依頼いただいて作成する際はその把握に物凄く時間をかける。だから、コンサルやマーケティングもするのだ。
立ち位置の把握を間違えていれば、かっこいい広告を作れたとしても大コケしてしまう。売れない上に、作り直しになるだろう。だから、外してはいけない流れである。
もし、ご自身で作成する場合はただ上手い広告を作成するのを目指すだけでなく、ぜひ立ち位置などを一旦把握することをおすすめしたい。